資産管理
日常の経営推進で管理すべきことの一つは債権管理だが、同様に資産管理も大切なことの一つだ。
棚卸資産管理の重要性
どの企業でも、棚卸しを行っているはずだ。
利益を確定するには、どれだけの在庫があるかがわからなければ確定できない。売上原価は、期首の棚卸資産に製造原価を加え、そこから期末の棚卸資産を引いて求める。すなわち、その期の売上に要した原価だけを算出するためには、棚卸資産の額がわかる必要があるからだ。
余談になるが、利益の誤魔化し(粉飾)で多い一つが、棚卸資産の誤魔化しだ。棚卸資産の額が多ければ売上原価は下がり利益は増えるからだ。
健全な経営を行なうためには、正しい棚卸しが重要ということだ。
実地棚卸
正しい棚卸しを実施するために、実地棚卸で注意すべき点について少しだけ記載しておきたい。
まず大切なことは、通常、他部署の人にも応援してもらうことが多いので、誰が、どこをやるかを決めると共に、棚卸原票(タグ)の記入方法などを事前にしっかり説明して、作業に入ることだ。
特に、わかりにくい在庫(例えば、作業くずなどで販売や再利用可能なもの、また、不良品や返品された修理品などの区分など)については、きちんと説明すると共に、わからない時には、誰に聞くかを決めておくこと大切だ。
また、仕掛品などは、工程別に把握する必要があるので、それらも事前にやり方を決めておく必要がある。これらについては、棚卸作業マニュアルを整備しておくとよい。
棚卸しが終わったら、棚卸原票を回収して集計し、それを元に棚卸資産の額を確定することになる。
在庫違算(棚卸差異)
ところで、実際に棚卸しを実施すると、帳簿上はあるはずなのに無いということがある。逆に、無いはずのものがあるということもある。
正しい資産管理という視点からも、このような在庫違算を発生させないことが大切だ。そのためには、日頃から棚卸差異が発生した際に、原因を把握し対策していく必要がある。
よくある違算原因の例としては、類似の品番のものを間違って出庫したり、逆に間違った品番で入庫したり、現場から倉庫へ再入庫する際に伝票を書き忘れたり数量を間違えたり、また、社内の検討会議で急に部品が必要となり部品だけを持ち出したものの伝票処理を後回しにして忘れたりといったことがある。出庫伝票を発行することなく持ち出したり、入庫数や出庫数が伝票と異なっていたり、仕入伝票の処理を忘れたりすれば違算が発生する。
「1対1の原則」は棚卸資産の管理でも同じ
「債権管理」のところで述べた「1対1の原則」は、棚卸資産管理でも重要だ。物の動きと伝票は一対になって動くことが原則だからだ。
製品を出荷したのに、売上伝票が発行されなければ、売上計上されず、請求もされない。物が入ってきたのに仕入伝票が発行されなければ、在庫が合わなくなると共に買掛金に計上されない。倉庫から品質確認のために出庫したのに、出庫伝票が同時に発行されなければ、在庫が合わなくなる。常に、物の動きと伝票は一対になって動く必要があるということだ。
5Sができていない企業は違算も多い
在庫違算が多い企業に共通するのが、この「1対1の原則」が守られていないことと、「5Sができていない」ということ。
類似した部品の間違った出庫、無いと思って発注したらあったというようなことが発生する原因は、5Sが徹底できていないからであり、整頓の3定(定位置・定品・定量)が決められておらず、一目でわかる管理ができていないことに他ならないからだ。
滞留在庫の撲滅
ところで、もう一つ資産管理で大切なことは、長期滞留在庫にしないということだ。資産はお金が物に形を換えたものだ。借金までして調達した貴重なお金を長期間に渡って物にして置いておくというのは許されない。いかに早くお金に換えるかが経営であり、そのためには、滞留在庫や滞留化しつつある在庫を明確にし、早期に現金化する必要がある。
そのためには、滞留在庫は一番目立つ場所に置くことだ。下手をすれば大切なお金を捨てることになるからだ。その上でリスト化して、いつまでに使用するのか、転用するのか、また調達先や販売先に引き取ってもらうのかなどの対策案と共に、担当者・スケジュールを決めて推進することが大切だ。
ちなみに、長期に滞留している在庫の多くは、工場や倉庫の奥に追いやられることが多い。動かないものがベストポジションにあったのでは、物流の妨げになるからだ。しかし、奥に追いやられれば追いやられるほど、滞留在庫の存在は意識されなくなる。気付いた時には、廃棄せざるをえないというのでは話しにならない。貴重なお金を捨てるだけでなく、廃棄処理の費用まで発生することになる。だからこそ、滞留在庫は一番目立つ場所に置き、早期に現金化する取り組みが大切なのだ。
固定資産の管理
固定資産の管理については、定期的に固定資産台帳と共に、現物の管理をすることが大切だ。貸与している資産も同様だ。当然のことではあるが、固定資産管理台帳が整備されていないのでは、正しいB/Sという視点からも問題なので、台帳の整備状況も確認しておく必要がある。
実際、資産の貸与先が倒産という事態になった際、固定資産台帳がなければ自社の資産であることを示すこともできず、資産を引き上げることができないという事態になることもある。
また、「貸借対照表とは」のところでも述べたが、活用していない固定資産があれば、寝かせておくのではなく、売却することを検討すべきだ。使っていない固定資産は、余分な場所をとるだけでなく、日本であれば固定資産税がかかり、置いておくだけでお金が出ていくことになる。本来は、お金を生み出すために投資した資産でも、お金が生み出せないのであれば、早期に売却してスリムなB/Sにすべきということだ。
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