経営戦略の実現に向けた人事制度の構築

大きく経営環境が変化する中、どう事業構造を変革するかが、その企業の生死を決める。

成長には、事業再編は必要不可欠であり、どうポートフォリオを入れ替えることができるかが鍵だ。

この経営戦略をどう描けるかが、経営者の力ということになるが、もう一つ大切なことは、この経営戦略を実現できる体制の構築と人材の確保だ。

すなわち、既存事業の売却・撤退と共に、新たな成長の鍵となる事業の買収・創造・育成をしていくためには、これらの事業を推進できる体制と、人材の育成・確保が鍵になるからだ。

経営戦略を実現する組織・人材要件を明確にする

経営戦略を実現するためには、それを実現するための組織体制と共に、必要となる人材を確保しなければならない。

そのためには、

①. 経営戦略・事業戦略を実現するために必要となる役割・機能(機能戦略のベース)を明確にする。

②. その役割・機能を果たすための組織を明確にする。

③. 各組織の役割を果たすために必要となる知識や技能、語学力や人脈、技術など、必要となる能力を明確にする。

④. それを踏まえて人材の確保や育成計画を明確にする。

ということになる。

適切な人事制度を作る

言い換えると、これは、人事制度設計の基本にほかならない。

人事制度の設計を図に示すと、次のようになる。

経営ビジョン・経営戦略を踏まえて各事業戦略を構築するが、それを実現するために必要となる機能を明確にし、その役割・機能を果たすための組織を明確にする。

それによって、組織が決まり、各組織の役割・ミッションが明確になる。

各組織の役割・機能を記載したものが、業務分掌だ。

業務分掌

業務分掌では、何をやる責任があるのかを明確に示すことが重要だ。

ちなみに、「○○に関すること」という言い方になっている業務分掌を見かけることがあるが、これでは役割・機能を果たすという視点からは不十分だ。

例えば、経理部門を例にすると、「決算に関すること」というだけでは具合が悪い。

決算を担当するのであれば、「計画数字を達成するために、事前に経営数字の見通しを出し、先手で対策を指示して計画達成に向けて推進する」「実績と計画の差異を把握し、差異原因を明確にして計画達成に向けて対策推進をする」というように「○○を○○する」というような機能表現にすることで、役割・機能・責任を明確にできる。

単に「決算に関すること」というだけでは、経営戦略の実現に結び付かないからだ。

役割・機能を果たすためにどんな能力が必要か

続いて、役割・機能を果たすために必要となる能力、知識・技能などを明確にする。

これによって、教育・訓練計画や、適切な人材の採用計画、人事評価に結び付けることができる。

何のために、この教育・訓練が必要なのかが明確になっていないまま、なんとなく他社の事例などから、こんな研修があると良いのではというような研修計画を策定している例を見かけるが、そうではなく、経営戦略・事業戦略を実現するためにどんな能力が必要なのかを明確にして、それを教育・訓練計画に落とし込み、推進することが大切だ。そうなれば、教育・訓練の目的も明確になり、また、能力の評価基準も明確にできる。

人事考課

人事考課は、その役割・ミッションをどれだけ実行できたか、また、実行できる力があるかなどが評価軸になる。役割・ミッションが明確になっていないと評価はできないし、必要とされる能力が明確になっていなければ能力についての評価もできないことになる。

 

人事制度見直しの重要性

経営環境の変化を踏まえ、どんな経営戦略を打ち出せるかが企業の盛衰を決める時代だ。その実現のために、常に組織体制を含めた人事制度の見直しが必要だ。

経営戦略、事業戦略を実現するためには、どんな機能が必要になるのか、その役割・機能を果たすためにはどんな組織体制にすべきか、また、各組織の役割・ミッションを担うには、どんな能力が必要になるのか、そのためにどんな人材を確保する必要があり、また、どんな教育・訓練をする必要があるのかが明確になっていないと、経営戦略の実現はできない。

今、リスキリングの必要性が叫ばれているが、それは、経営戦略を実現するために必要な能力を身につけなければ、企業は生き残ることができないからだ。

 

形だけの人事制度ではなく、戦略実現のための役割・機能を明確にした人事制度に見直ししていくことが大切なのだ。