女性役員の育成をどうするか

東京証券取引所は、東証プライム市場の上場企業に対して、2030年までに女性役員の比率を30%以上にすることを目指すよう求めている。

しかし、社内から女性を役員に登用できている例は少なく、弁護士や公認会計士などの資格を持つ女性を社外取締役に起用することで数合わせをしているのが大半だ。

また、社内から女性の役員を登用できている企業でも、ほとんどが人事や法務など専門分野の担当役員というレベルに留まり、真に経営を担える女性人材を役員に登用できている例は稀だ。

女性の役員登用を難しくしている背景

経営を担うことができる女性人材を育成できていない原因として、一つには経営を学ぶ機会を作り出せていないことがあるが、それ以上に大きな壁になっているのが、グローバルでの経営経験を積ませられていない点だ。

特に、グローバル事業が成長の鍵になる中、グローバルビジネスに関する知識や経験がないと経営の舵取りはできない。

役員になるためには、海外経験は必須になっており、実際、海外経験を役員登用の条件にしている企業は多い。

ところが、結婚して子供を持つ女性の場合、海外赴任するにはハードルが高い。家族帯同で赴任するにしても、夫とは別居になる可能性は高く、単身で赴任するには、子供がある程度自立している必要があることから、実際、結婚している女性が海外赴任できている事例は少ない。

女性役員の育成ポイント

このような背景を踏まえ、女性の役員をどのように育成していくとよいだろうか。

ポイントは、一つは、「経営のわかる人材の育成取り組み」と、もう一つは「グローバルビジネス・グローバルマインドの育成」だ。もちろん経営幹部としては、これ以外にも多くの能力が求められるのだが、重要なポイントとなるこの2点について以下に述べる。

経営のわかる人材の育成

経営を理解させるのに一番早いのは、決算検討の場に参加させることだ。決算数字は経営の結果をまとめたものだからだ。

経営推進をする上で、どのような数字を管理する必要があるのか、何を確認する必要があるのか。そして、数字の裏付けが現場になるのだが、数字の裏付けとしての現場は何を確認する必要があるのか。これらを理解することが経営推進をする上でのポイントだ。

すなわち、経営数字から何が問題かがわかり、さらに現場と経営数字の関係が理解でき、現場に対して、どんな手を打つべきなのかが適切にわかることが重要だ。

経営者は、決算検討の場を「経営を勉強させる場」と意識して、これらを理解させるように質問したり、対策を考えさせたりすることが大切だ。

例えば、経営数字で見るべきポイントは、単に売上高と利益の状況だけではない。

一番重要なお金がわからなければ経営の舵取りはできないので、毎月の資金の状況、資金計画との差異の原因なども確認することが重要だ。在庫の状況や売掛金の回収状況などをなぜ確認しないといけないかを理解させることだ。

さらに、現場で、それらの管理状況がどうなっているかも質問することで、お金と現場の関係も理解できるようになる。

さらに自分で資金計画の組立ができる力をつければ、現場が行なうべき資金対策も自ら指示できる力をつけることができる。

利益も変動損益計算書が読み込めて、計画との利益差異が分析でき、計画利益を確保するために、各部門が取り組むべき利益対策や目標割り付けもできる力を養成することだ。

すなわち、経営者は、「決算検討の場は経営を勉強させる最良の場」であることを意識して、この場を活用して徹底して、経営のわかる人材育成に取り組むことだ。

グローバルビジネス・グローバルマインドの育成

海外経験のない女性を経営幹部に育成するためには、グローバルでの事業推進ができる力をどう養成するかが一番の課題ということになる。

この課題解決には、特別な育成支援と段階的な育成アプローチが必要になる。

グローバルビジネスに関するトレーニング

まずはグローバルビジネスの基本的な知識を身につけさせることが重要だ。これには、国際市場のトレンド、地政学リスクを含めた各国の経営環境や規制、労働市場や環境、文化的な違いなどを学ぶことだ。

すなわち、海外でのビジネスをする上での常識を身につけることだ。

さらに、戦略的な意思決定を行うためには、グローバルな視点でどうビジネス環境とその変化を理解し対応するかのスキルを養うプログラムを提供することも重要だ。

異文化トレーニング

また、海外のメンバーと一緒になって取り組むためには、異文化の理解と適応力を高めるためのトレーニングが大切だ。異文化のマネジメントスキルは、特にチームを率いる幹部にとって重要な能力と言える。ベースとなる語学力と共に、ワークショップやケーススタディを通じて、さまざまな国のビジネス習慣やコミュニケーションの違いを学び、異文化環境での柔軟性を身につける機会を提供して学ばせるのは方法の一つだ。

メンターの活用

経験豊富な経営者や国際的なビジネスリーダーをメンターとしてアサインし、女性幹部候補に定期的なフィードバックやキャリアに関するアドバイスを提供することは、女性幹部を育成する上で有効な方法の一つだ。

特に海外経験がない場合、異文化やグローバル市場の理解が不足しがちなので、メンターが具体的な経験を共有することは大きな助けになる。

グローバルプロジェクトへの参加

海外経験の少ない女性幹部候補には、積極的に国際的なプロジェクトへの参加機会を提供することが大切だ。

これにより、実際に海外市場や異文化チームを扱う経験を積み、グローバルな視点でのリーダーシップを発揮するスキルを身につけることができる。さらに、プロジェクトの規模や範囲を段階的に広げることで、徐々に自信とスキルを培っていくことができる。

短期海外派遣プログラムの導入

女性の場合、出向や長期的な海外駐在が難しいケースが大半だ。それを補うために短期的な海外派遣プログラムを活用して、現地でのビジネス環境や文化を実際に体験する機会を提供することは有効だ。

数週間から数か月の期間、現地のチームとの共同作業や市場調査に従事させることで、グローバルな感覚を養うことができると共に、異文化への理解やコミュニケーション力の養成にもつながる。

海外のビジネススクールやプログラムへの参加

さらに、グローバル経営に特化したビジネススクールの短期プログラムに参加させることも有効だ。国際的なビジネス理論や実践を学ぶことで、最新の経営知識を得るだけでなく、他国のビジネスリーダーとのネットワークを広げ、異文化のビジネス環境でのリーダーシップ能力の向上も期待できることになる。

キャリアパスの設定

ここに示した育成方法は一例だが、女性の役員・女性の幹部を育成するためには、企業として覚悟を持った取り組みが必要ということだ。

そのためには、女性幹部候補のキャリアパスを明確にし、グローバルリーダーとしての成長のビジョンを提示し、候補者自身が、それにチャレンジする強い意思がないと成功しない。

それだけに、明確なキャリアパスを設定し、共有することが大切なのだ。

 

皆が認める女性役員を輩出するためには、しっかりした計画と体制を作ると共に、何と言っても、経営者がそれを実現するという強い意志を持って育成に取り組むことが重要だ。

特に、海外経験のない女性をグローバル幹部に育成するためには、段階的なスキルの強化、現地での経験を積む機会の提供、そしてメンターのサポートが欠かせない。

このような取り組みを通じて、多様なリーダーシップスタイルやグローバルな視点を持ったリーダーを育成することが、企業の成長にとっても大きな財産になると意識することが大切だ。