海外への出向者人材の育成
海外拠点を成長エンジンに位置付けている企業は多い。それだけに、優秀な出向者人材を育成できるか否かは、事業の成否を決めることになる。
実際、海外出向経験を昇格の条件にしている企業もあるが、これは、グローバルでの事業感覚がないと、経営幹部としての役目が果たせないからだ。
それだけに、出向者人材の育成は、将来の経営幹部育成という視点でも重要だ。
1ランク・2ランク上の仕事ができる力を
多くの場合、出向者は、日本国内より1ランク、2ランク上の仕事をするケースが大半だ。今まで課長職だった人が部長や工場長として、また、部長や工場長だった人が社長として赴任するなどだ。
当然のことだが、日本の部長も海外拠点の部長も、どちらも同じレベルである必要がある。そうでなければ、従業員がついてこない。
すなわち、出向者人材の育成は、1ランク以上上のレベルの力をつけられるようにすることが必要だ。
出向者一人が担当する分野は広く、専門知識も要求される
さらに、出向者一人が担当する分野は広い。
例えば、製造と言っても、組立だけということにはならず、源泉工程も含めた知識が必要になる。当然のことながら、生産設備やメンテナンス、受配電などそれに付随する知識、また、品質に関する専門知識も要求される。日本と異なり、設備保全が適切にできないことに起因して生産が停止する例もある。さらに、部品や部材に関する知識、購買・調達に関する知識、倉庫管理をはじめとした入出庫管理など、製造分野全般についての知識が必要になる。
日本の工場長であれば、それぞれの担当課長や専門家に指示すればすむが、海外の場合は、それぞれの分野について、ある程度の専門知識を持っていないと対応できないことも多い。問題が発生した場合、具体的な対応ができる必要があるからだ。
言い換えると、管理だけできればよいということにならないケースが多いということだ。
これらを身につけるためには、これらの部門を経験できるように計画的なローテーションが重要だ。
また、出向すると、立場的に、ローカルメンバーを指導する役割も担うことから、これらを意識した育成取り組みを継続することも大切だ。
経営の基本を徹底して理解させる
海外出向する場合、経営責任者として出向する場合はもちろんのこと、それ以外の立場で出向する場合も、経営幹部として赴任するので、経営の基本については、徹底して理解し、自らそれを実践できる力をつけておくことが重要だ。
ポイントは、「キャッシュフロー経営」の根幹を理解させること。利益のことしかわからず、基本となるお金を理解していないと資金繰りに行き詰る事態に陥ることもある。販売すればお金を支払ってくれることが当たり前の日本の常識は、国によっては通用しない。
売掛金の回収管理や在庫管理の重要性も理解している必要がある。
赴任国への理解
それに加え、さらに重要なことは、その国への理解だ。
実際、その国の風土・風習を知らず、言ってはならないことを発言したことで、労働争議になり、出向者を帰任させざるをえなくなった例もある。
その国の文化や宗教、生活スタイル、伝統や教えは、現地の人の常識であり、常識ある言動ができるようにするためには理解しておくことが必須だ。
また、環境も日本と異なることを理解しておく必要がある。どのような災害が発生するか、安全一つも日本と同じ感覚でいると大きな問題を起こすことにもなる。
さらに、その国で事業をさせていただく以上、その国の法律への理解も必要不可欠だ。労働法を無視した言動や指示は労働争議を招き、事業を停滞させる原因にもなる。
これらは、赴任前研修でしっかり理解させると共に、その国への出向経験者を講師やメンターとして活用することも有効だ。
出向者の不安を取り除くこと
出向者にとって、日本とは違う環境で生活することになるので不安に感じることは多い。事前に、それらの不安を少しでも解消しておくことが大切だ。
特に、安全や健康に関する情報、また、日常生活を送る上で必要となる情報も事前に入手しておくことが有効だ。
実際、赴任前に現地に赴き、住居の選定などを行なうと共に、生活環境の確認をしておくことも大切だ。また、家族を帯同する場合は、子供の教育関係の確認と手続きも大切だ。
現地の言葉の勉強も
ローカルメンバーとのコミュニケーションはもちろんのこと、日常生活でも、現地の言葉を少しでも話せることは重要だ。
従業員との信頼関係の構築、また生活面での不安も減少させることができる。
英語圏であれば、英語さえできれば問題はないが、それ以外の国であれば、少しだけでも現地の言葉を勉強して赴任することが有効だ。
出向者育成プログラムの重要性
海外拠点は日本の中の一工場ではなく、独立した法人ということになる。税務調査が入ることもあれば、労使協議等も独立した会社として対応が必要になる。それだけに、独立した会社を経営できるだけの力が求められる。
日本とは異なる環境で、これらに対応できる出向者人材を育成するには、日本の経営幹部育成以上に、多くのことを学ばせる必要があるということだ。
経営が傾いた海外拠点の実態を聞くと、これは「人災では」という事例は多い。適切な出向者人材育成ができないまま赴任させたことで、適切な経営判断、経営推進ができず、経営がおかしくなったという事例はものすごく多いのだ。
それだけに、中長期視点で出向者人材を育成するプログラムを作成し、計画的な育成を図ることが大切だ。ある程度実務経験を積んだ人材には、本人の意向も確認して、海外出向候補者リストに入れ、計画的なローテーションを含めて育成を図ることだ。海外トレーニー制度の導入・活用も含め、計画的な育成を図っていただきたい。それが、グローバルでの成長戦略を実現する鍵と言える。