海外事業を成功させるポイント・・経営の現地化
海外事業を成功させるポイントは、いかに現地化を図るかにある。
企画・開発の現地化はもちろんのこと、地政学リスクの高まりを踏まえた地産地消、物流における脱炭素視点からの調達の現地化(現地調達)などが重要になっているが、それらを実現するためにも「人の現地化」が鍵となる。
先ずは出向者が現地を知る・・・出向者の現地化
先ず重要なのが、出向者がどれだけ現地事情を理解できているかだ。
その国の国民性、文化や宗教等への理解が無ければ、従業員の協力を得ることが難しいだけでなく、非常識扱いされ、大きなトラブルに発展することもある。
筆者が知るタイの事例だが、出向者が人事異動の説明で王様を引用して話しをした。説明の仕方の悪さもあり、これが不敬発言だとして従業員から残業拒否、さらにはストライキに入る事態にまで発展。この出向者を帰任させることで問題収拾を図らざるをえなくなった。タイの常識を知っていれば、このような事態は招かなかったはずだ。
先ずは、その国で仕事をさせていただく以上、その国の文化や宗教を知り、それを踏まえたオペレーションをしない限り、現地に根ざした経営はできないということだ。
出向者が赴任する前に、徹底して赴任国の文化・宗教・考え方、現地でよく発生している問題、さらには労働法をはじめとした遵守すべき法令など、現地事情を勉強させることが重要だ。すなわち、出向者の現地化を図ることだ。
経営の現地化推進の重要性
現地でオペレーションをする以上、現地事情がわかる人材の方が、現地に即した適切な判断や行動ができる。実際、災害にあった場合でも、現地事情がわからなければ適切な対応もできない。
営業活動一つも現地事情を知る人材の方が新規顧客の開拓も商談もうまくいくケースが多い。調達活動も同じだ。
すなわち、現地に即した適切な判断をするためには、経営の現地化が鍵と言える。
さらにコスト競争力という点でも現地化が重要だ。出向者には多大のコストがかかるからだ。
現地給のみならず、日本の国内給、住居費や送迎費用、国によっては車と共に運転手も雇う必要があり、日本での人件費よりはるかに高い負担になる。さらに合算課税なので、これらは海外会社が負担しなければならない。
厳しい競争環境の中、コスト力の強化は必須だ。すなわち、経営の現地化はコスト面からも必要不可欠なのだ。
さらに、ローカル人材の経営幹部への登用は、ローカルメンバーのやる気につながり、離職を抑制することにもなる。
現地化計画の策定を
経営の現地化を実現するためには、出向者がいかにローカル人材の育成を図れるかが重要になる。
出向者の中には、経営数字だけしか意識せず、肝心の経営人材の育成を怠っている例は多い。経営人材の育成は出向者の責任であることをよく認識することが大切だ。
経営の現地化を図るためには、「現地化計画」を立て、キーとなる人材を計画的に育成していくことが重要だ。
計画的なローテーションや日本を含む他拠点での研修、また外部の研修、MBA教育を受けさせるといったことも有効だ。
日本からの出向者は3年~5年で交代することが多い。経営責任者が代わっても現地化計画が引き継がれるようにすることが重要であり、このためには、グローバル本社で現地化計画の進捗を管理する仕組みを作ることが有効だ。
日常の中での育成
ところで、出向経営責任者に経営人材育成の責任があるとは言え、人材育成だけに時間をとることは難しい。
そのような中で人材育成を図るには、日頃の経営推進の中で人材育成を意識した推進を図ることが有効だ。
例えば、毎月、月次の決算検討をする場は、「管理すべき経営数値は何か」「どの取り組みがどう経営数値に関係するか」を理解させる絶好の機会だ。「計画の利益、キャッシュを確保するための具体策を検討させる」などすることで、管理すべき経営数値と共に「何に取り組むことでキャッシュや利益を増やせるか」が理解できるようになる。
例えば、「なぜ計画以上に在庫が増えたのか」を質問すると共に、借入をしている中で在庫が増えれば、借入して調達したお金を在庫にしたことで、その分お金が減ると共に、金利まで支払って在庫を持っていることを理解させるなどだ。
キャッシュフロー経営を推進する上で、単に利益だけではなく、在庫削減の重要性、運転資金圧縮がなぜ必要かを理解させることもできる。
また、金利の話しから資本コストの考え方を理解させると共に、投資回収についての考え方についても理解させるなど、日常の決算検討や投資検討の場で、管理すべき経営数値や判断の仕方、また現場での取り組みと経営数値の関係を勉強させることはできる。
もっとも、出向責任者がこれら経営の基本を理解していないようでは、経営責任者は務まらないので、しっかりと経営を理解させて出向させる必要がある。

