経営戦略
経営者の重要な役割は、経営戦略を明確に示すことだ。ところが、この経営戦略が明確に示せていない企業は多い。
経営環境・市場環境は常に変化しているだけに、既存事業の収益拡大に努力しているだけでは将来は見えない。現在は利益を確保できている既存事業も市場環境の変化で成長が難しくなることは多いからだ。
実際、デジタル化の流れの中で、銀塩フイルムは無くなり、その関連事業は急激に縮小した。自動車業界も今100年1度と言われる変革期にある。
それだけに、経営戦略を明確にして推進することが重要だ。
経営戦略の基本
経営戦略の基本を示すと図のようになる。経営戦略→事業戦略→機能戦略への展開が基本だ。
まず経営戦略だが、これはどの事業をやめるか、どの事業を伸ばすかを明確にすること。「選択と集中」だ。
これを踏まえて、各事業の戦略を明確にする。やめる事業は、どう撤退するか売却するか。また、伸ばすべき事業はどのように拡大するか明確にする。これが事業戦略だ。
そして、これを実現するために各機能(開発・生産・調達・拠点・販売・人事・財務・・・)をどうするか、必要となる経営資源の確保と再配置を含めて明確にしたものが機能戦略だ。
事業の選別
経営戦略は、どの事業をやめるか、どの事業を伸ばすかを明確にすることだが、この選択が適切にできていない企業は多い。特に、長年続けてきた事業を撤退するのは心情的に難しいこともある。
それだけに、選別の基準を明確にして冷酷に判断することが大切だ。
それでは、選別の基準はどう考えるとよいだろうか。それは、将来的に事業価値がどれだけあるかだ。
事業価値については、「企業価値と株主価値」のところでも記載したが、その事業が将来的にどれだけのキャッシュフローを生み出すことができるかということだ。すなわち、将来的に生み出すフリーキャッシュフローを現在価値にして算出する。現在価値については、「投資の可否判断」のところで述べたとおりだ。
やめるべき事業
すなわち、事業価値の無い事業、将来的に事業価値が縮小する事業には、経営資源を投下する価値はないので、やめるべき事業ということになる。
また、事業価値はあっても、重点的に伸ばそうとする事業ドメインと無関係な事業については、やめることを検討すべきだ。それは、伸ばすべき重点事業に経営資源を重点投下することから中途半端になる可能性があるからだ。
もっとも、これらは、重点事業へ投下するための経営資源を確保するために重点事業が確実に見えるところまで継続するといった判断をすることもある。このあたりは、重点事業の事業戦略と必要となる経営資源策を明確にして判断することになる。
伸ばすべき事業と新たな事業の創造
ところで、経営戦略の策定で一番難しいのが、伸ばすべき事業をどう創造するかだ。
やめるべき事業は、事業価値の低い事業なので、機械的に決めることができる。しかし、やめるだけでは成長の絵は描けないので、どの事業を重点的に伸ばすかを明確にし、成長シナリオを描くことが重要だ。あわせて、市場環境を踏まえて伸ばすべき事業の創造も重要だ。
この検討には、事前に、外部環境分析(含む競争環境分析)、内部環境分析を色々なフレームワークを活用して分析しておくことが有効。
伸ばすべき既存事業については、今の延長線ではなく、売上高2倍、占有率2倍にするためにはというような思い切った発想で検討することで、今までにない戦略が描けることが多い。
また、新たな事業の創出には、市場環境の把握と共に、自社の強みを適切に把握することがポイントになる。自社だけが持つ独自技術や競合他社に勝てる技術(生産・加工技術等を含む)など、自社の強みをいかに抽出できるかだ。
それらから、伸ばすべき既存事業と相乗効果のある新たな事業を創出できると良い。例えば、自社が強い市場や顧客向けに既存事業と相乗効果のある新たな商品やサービスの展開や、新たな付加価値を付けた完成品や部品・パーツ事業、またソリューション事業などだ。
どの事業ドメインを中心に展開するのか、新たな事業創出についても、それを実現するためにどんな経営資源を確保する必要があるのかを明確にすることで、M&Aを含めた検討もできることになる。
経営戦略の明確化が経営ビジョンに
経営戦略を明確にすることは、経営ビジョンの策定につながる。
まさに経営戦略を適切に描くことができるかが、経営者の力なのだ。もしこのシナリオイメージが持てないのであれば、シナリオを描ける人に経営を委ねた方がよい。
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