在庫は仕事の質のバロメータ
貸借対照表の借方の流動資産の管理ポイントは、「お金を生み出すものだけにお金を使う」ということであり、何にお金を使うかが経営者の腕の見せ所だ。
お金を生み出さないものに使ってしまうと、その分、お金が減るだけではなく、資金には調達コストがかかるのでさらにお金は減ってしまうことになる。
すなわち、お金を増やすことにつながらない資産は徹底して減らすことだ。売掛金と棚卸資産はその代表だ。
在庫の多さは経営の実態を反映する
中でも、在庫は各社の経営実態を反映していることが多い。
同一業界で比較してみるとわかるが、在庫が少ない企業は利益が高いのに対して、在庫が多い企業は利益が少ないことが多い。
図は、精密機器業界で棚卸資産の回転日数と営業利益率を比較した例だ。このグラフを見てもわかるように、棚卸資産の少ない企業は、総じて利益率は高く、逆に棚卸資産の多い企業は利益率が低い。
仕事の質が高くないと在庫ミニマムにはできない
それでは、なぜ在庫の少ないところは利益率が高く、在庫の多いところは、利益率が低くなるのだろうか。
在庫が増える要因は色々ある。
例えば、販売見通し精度が悪いと、欠品を防ぐために在庫でカバーすることになる。
販売見通し精度が悪くなる原因の一つは、営業部門が市場動向をしっかり把握できていないことがあげられる。顧客の販売状況・在庫の状況が適切に把握できていないと適切な見通しは出せない。これは営業の仕事の質によって決まる。
さらに販売見通し精度の低さの原因になるのが生産リードタイムの長さだ。生産リードタイムが長いと早くから材料などの手配が必要となるため、直近の販売状況を反映できず、見通し精度は悪くならざるをえない。生産のリードタイムは、調達リードタイムと製造リードタイムで決まるが、この長さも仕事の質で決まる。例えば、調達のリードタイムは、発注までの事務処理のリードタイムの長さやサプライヤーのリードタイムが大きな要素になるが、いかに短時間で発注業務ができるか、また、サプライヤーに対していかに的確な内示情報を出せるかといったことが重要になる。これらは仕事の質を表すものだ。
製造のリードタイムの長さは仕掛在庫の量を示す。財務諸表から製造リードタイムは推定できるが、あちらこちらで仕掛在庫がたまるようなものづくりをしているようだと、製造のリードタイムは長くなる。さらに、品質トラブルや設備トラブルが多発しているような製造現場であれば、それに備えて余分に在庫を持つ必要が出てくる。これらは、すべて仕事の質を表していると言える。
安全在庫一つも、これら仕事の質に左右されるということだ。
在庫が多いところは多くの損失を出している
すなわち、在庫が多いところは仕事の質が低いことを示していることになり、多くの損失を出しているということだ。
在庫の管理レベルが悪いと、あるはずのものがないといった在庫違算が発生する。品質トラブルや設備トラブルが多ければ仕損費が増え、能率も稼働率も歩留りも悪くなる。
あちらこちらに仕掛在庫がある工場は付加価値を生まないものに場所を使うと共に、工場内で余分な物流コストを発生させ製造原価は高くなる。
また、在庫が多ければ、それだけ管理コストも発生する。在庫はお金が物になっている状況なので、金利などの資本コストがかかっている。滞留化すれば廃棄にもなりかねない。
在庫が多いところは間違いなく多額の損失を出しているということであり、逆に在庫が少なければそれだけ借入金も返済でき、余分な支払い金利も発生しない。
すなわち、在庫は、その企業の仕事の質を如実に表しているバロメータなのだ。
経営推進のコツ
裏を返せば、在庫を徹底してミニマムにする取り組みは、ムダなお金の使い方をしないことでお金を生み出すと共に、貸借対照表をスリムにし、利益の出せる体質を築くことに直結するということだ。
「徹底して在庫を減らせ」という指示は、単にお金をムダなものに使わないというだけではなく、仕事の質を向上させ、それが利益の出せる企業体質に変革するきっかけになるということだ。
経営推進のコツというのは、こういうところにあると心得ていただきたい。
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